照明のありかた【家のつくりかたコラム】vol.16

Q.照明計画とはどういうことか。

A.照明器具も、意図と目的があって配置されるべきものです。

設計の仕事は間取りを考えるだけではないと書きましたが、
様々な設計の中には照明の計画も含まれます。
照明器具やスイッチ、コンセントの位置を考え、
どのスイッチでどの照明がつくようにするかなどの
配線を計画し、器具自体も選定してインテリアも考え、
その器具の光がつくる空間の雰囲気も考えます。

商業施設や公共施設のように大きな建物の設計では
照明計画の専門家が入るぐらい重要な分野で、
機能や耐久性、コストなどのエンジニアリングだけでなく、
照明器具自体の見た目や空間の雰囲気など
視覚効果的な面も検討し、提案することもあり、
これもまた重要な、デザインの仕事です。

住宅建設ぐらいの予算規模で、設計士とは別の専門家に
照明計画を依頼することは難しいので、
通常は設計士が照明計画を行います。
私個人は、照明計画は楽しいので大好きです。

最近はずいぶん少なくなりましたが、
十数年前までは、居間や個室の天井にダウンライトを
配置する計画にすると驚かれることがよくありました。
ダウンライトとは、天井に穴をあけて埋め込む形式の器具。
直径15~20㎝程度の円形であることが多く、昔の家では
トイレや洗面室など、狭く、天井が低くなりがちな部屋で
使われることの多い器具でした。

昔は、大きな部屋は天井のど真ん中に、天井に張り付く形状の
シーリング照明をつけるもの、という感じの家が多かったです。
円形蛍光灯を大きさ違いで2~3本、同心円状に取り付ける、
という形状であることが多い器具で、部屋全体を一様に照らし
1台で部屋中なんとなく明るくした気になれるので
居間などで当たり前に使われました。

中央の丸いのがシーリング照明

ですが空間全体を、明暗の差をつけずに均一に明るくすると、
遠近感が薄れて部屋が狭く感じます。
空間は、リズム(変化)があるほうが基本的には広く感じます。
建物を物理的に大きくすれば、どうしても工事費は上がりますから、
感覚にうまく働きかけて、無理に大きくしなくても広く感じるなら
そのほうが予算も効果的に使えるでしょう。

また、寝る前の時間帯に煌々と明るく白い光を浴びていると、
脳の覚醒状態や自律神経系、生体リズムを崩すことが
様々な研究ではっきりしています。
体内時計という言葉もずいぶん知られてきました。
その一端が、朝の目覚めに1,000 lx(ルクス)以上の強さの光を
体に浴びるのが良いというのですが、1,000 lx以上の照度とは
スーパーの売り場などで用いられる明るさです。
住宅の照明器具でその明るさを用意するのは、家庭での生活には
器具の価格も工事費も電気代も、大幅に過剰と言えます。

つまり、目覚めのためには外の天空光を浴びたほうが効果的だし
入眠のことや体のバランスのことを考えるなら、
必要以上の照明を住宅に設置するのは正しくないということです。

だからと言って家じゅうどこも薄暗いのが正しいとも思いません。
本や新聞を読む、料理をする、なにかの作業をするなどの場所は
手元をきちんと必要なだけ明るくすることが大事です。

タスク・アンビエント方式、とも言われ、
task(作業)領域とambient(周辺)領域を区別して
必要な場所を必要なだけ明るくする、という考え方です。
均一な明るさにしている場合に比べて
消費エネルギーも、快適になったことに伴う生産性も、
効率が良くなります。
なによりそのほうが、空間の質がとても良い。

部屋の使い方や暮らしに合わせて、必要な場所に必要なだけ
照明器具やスイッチを配置した計画をつくるには、それこそ
“部屋の使い方や暮らし”をきちんと把握しなくてはなりません。
設計者だけでなく、住む人もそこでの動きをよく想像し、
検討する必要があります。
想像した暮らしがずっと変わらずに続くとも限らないので、
可変性を持たせることも必要です。

時間も手間もかかるので簡単なことではありませんが、
快適で効率的で、質の良い空間で暮らせて、しかも結果的に
そのほうが工事費も生活費も抑えられるなら、
この機会に悩んで考え抜いておいたほうが得ではないでしょうか。
どうせ間取りでも悩むのだし、きちんと良い結果になるように
お手伝いをするために、設計者がいるのです。