暮らしに合うデザイン【家のつくりかたコラム】vol.15

Q. “よくデザインされたもの”とは何か

A.まず照明器具はいかがでしょう

以前の記事で「よくデザインされたものなら高額でも欲しい」
と書きましたが、具体的にはどんなもの?とお尋ねがあったので
すこしずつ触れようと思います。

“名作照明”という言葉をご存じでしょうか。
20年前には、建築業界でことさらこういう単語で
ひとくくりにした記憶はないのですが、
最近はメディアでもかなり見聞きするようになりました。
“名作”と呼ばれるほどに機能も見た目も優れた、
よくデザインされた照明器具のことです。

最も有名なのが「ルイス・ポールセン」。
19世紀に北欧・デンマークのルイス・ポールセンによって
創業されました。
初期のデザイナーで最も著名なのがポール・ヘニングセンで、
彼がデザインした照明器具は、頭文字のPHの後ろに
独特のナンバーを振って呼ばれています。

同じデンマークには「レ・クリント」もあります。
建築家イェンセン・クリントが、日本の折紙をヒントに
プリーツシェードを作ったのが1901年、40年ほどして
息子のターエがレ・クリント社を設立しました。
その弟コーアは、“デンマークモダン家具の父”とまで
呼ばれるほどのデザイナーでした。
彼がデザインしたぼんぼりのようなガラス玉のような照明器具は
見たことのある方も多いでしょう。

私の大好きなフィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトが
妻や仲間と1935年に設立した「アルテック」は、
スツール60などの家具も有名ですが照明器具もつくっています。

北欧ばかりではなく、イタリアにはフロスやアルテミデという
ブランドがありますし、アメリカにもハーマンミラーという
ミッドセンチュリー時代の家具がメインの会社があります。

どのブランドも、すでに半世紀以上の歴史を持っていますが、
形も色もまったく古臭さはありませんし、
技術的にも、LED電球にきちんと対応したり
住宅事情の変化に合わせてリサイズして工夫しています。

デザイナーの作ったものは形が奇抜で使いづらい、
と決めつける人が少なくないので本当に残念なのですが、
名作と呼ばれる照明器具は、その器具が照らす場所や空間を、
本当に美しく演出したうえきちんと明るく照らします。
そのうえで、光源が目に入らず眩しさは感じない、など
必要充分な配慮もされています。
「きちんとデザインされている」工業製品の実例として
本当にいつ見ても勉強になる完成度です。

その点では、日本の住宅に当たり前に付いている照明のほうが、
器具自体の外観も照らし方も無頓着です。
ダウンライトのように器具自体の形状が見えず、
照明効果に大差がない(と言い切ると語弊がありますが)
器具なら日本のメーカーの堅牢性も信頼できるのですが…

照明は本来「部屋の隅々まで明るくするもの」ではありません。
生の火を灯りにするしかなかった時代は燃料も高価で、
空間の一部分を照らす方式しか選択肢がなかったのも事実ですが、
電気が普及したからといって空間を隅々まで煌々と白々と
明るくするのは人間の本能に反しています。
生理的に問題があり、部屋を狭く感じるという点でも
大きな不利益があります。

照らすべきところを照らし、暗くて構わないところは暗い。
バランスも良く、リズムのある照らしかたができていると
家の完成度、ひいては満足度がずいぶん変わる、
ということは確信を持って言えます。
このあたりは照明計画の部分ですのでまた別の記事を立てます。