どんな雑誌が参考になるのか【家のつくりかたコラム】vol.5

Q.雑誌、書籍など、お薦めの情報はないか。

A.最初に強くお伝えしたいのは、家づくりの参考に
雑誌や書籍を使う時は、必ず買うべきだということです。

立ち読みをして、気に入った写真があればスマホで撮ればいい、
と思う人がずいぶん増えているようです。

違法性については専門家でないので言及は避けますが、
歴としたマナー違反です。
書店で立ち読みが黙認されているのは中身の確認のためであって、
たとえ一部といえども“内容を持ち帰るため”ではありません。

家づくりについて言えば、以前にも言及したとおり
自分自身の基準、ものさしを明確にして、本当に必要なものを
きちんと備えた家を作るために、様々なことを参考にして考えます。
家の写真もその一環です。

住宅に限らず建築を知るのに、直接訪れるに勝る経験はありません。
写真を見て何かを感じ、考えるのは、あくまでその体験の代用です。
それでも、プロが撮った写真を、きちんと印刷した紙面なら
まだ感じるものもあり得ますが、それをスマホで、しかも片手で
簡単に粗雑に写した画像から、自分自身の内面を見直すほどの
意図や思考を感じ取れるはずがありません。

最近はSNSや画像共有サービスなどがずいぶん普及しました。
数十分で何百枚もの画像を無料で手に入れられて、
見るだけならより手軽になっていますが、
同時に無思考も加速し、ため込んだ何百枚もの画像を
何度も見返すうちに、どれが良いのかわからなくなった、
というケースも激増しています。
数が多すぎて時間もかかり、疲れて流し見るようになったから、
自分自身の好みすら判断がつかなくなっているのです。

買い集めた雑誌の写真を繰り返し見て、
好きな写真、嫌いな写真を選りわけていくと、
自分の好みの傾向が見えてきます。
その傾向を、なぜ好きなのか、嫌いなのかと
分析していくことで、自分が必要としているもの、
欲しいものの輪郭がぼんやりと浮かんできます。
この過程が大事なのです。

スマホの小さな画面で、なにも考えずに勢いよく集めた写真を
自分の感性に合わせて、選りわけるのはたぶん難しいと思います。
やってみるとわかりますが「一覧性の低さ」は
デジタル機器の一番の弱点です。
ページを繰ったりフォルダを行きつ戻りつするのと、
何冊もの雑誌を、見たいページを開いてテーブルに置くのでは、
思考の整理のされ方がまったく違うのです。

即物的なことを言えば、お金を出して手に入れた物を
無駄にしたくないから、身を入れて見るようになるのも
現実としては大きな意味があると思います。
タダで集めておいた画像にはそこまで集中できないでしょう。

良い家が欲しいなら、きちんと考えて作りましょう。
そのために必要なのは、膨大な数の画像ではありません。
自分自身とじっくり向き合い問いかける時間が必要になるはずです。
それを踏まえて、なにを見ていくと良いのかを考えます。

建築専門家向けに作られた雑誌や書籍に載る写真は、
より広角のレンズを使ってできるだけ多くの情報を
一枚の写真に盛り込む傾向があります。
設計者や施工者は、そういう写真を見ても併記された図面や
文字情報の寸法などを参照して、実際はもっと狭いはず、
とか見当を付けることができますが、建築に関わる人でないと
それは難しいでしょう。
つまり広さや高さなどのサイズ感を正確に把握するのは難しいので、
画像から間取りに繋げて考えるのは失敗する可能性が高く、
やめたほうがいいということです。

家づくりに取り組む施主に必要なのは、専門的な情報より
写真から伝わる空気のようなものです。
その建物の意図、雰囲気、そこに人が写っていなくても
さっきまでそこにいたように感じられるような佇まい、
そういった感覚的なところがうまく表れている写真が
参考になるのではないかと思います。

感覚的な写真が綺麗に撮れているな、と私が見て感じる雑誌は、
『住む。』、『nice things.』のお店特集。
『暮しの手帖』は生活に根差した写真が充実しています。
また、専門家向けでもありますが『住宅建築』も参考になります。
外観、内観を全部収める広角写真、ではなくて、
場面と呼びたくなるような写真が多く載っています。

それから岩手で発行される地方誌、『家と人。』。
プロにも勉強になる記事の充実ぶりで、岩手に帰ってきて
初めてこの本を読んだときに驚愕しました。
写真の視点も独特で、住む人の目線で参考になります。
その後、発行者の加藤大志朗さんとの面識を得て、4本だけ
記事を寄稿させて頂いたのは私にとっても誇りです。
残念ながら2016年に休刊し、以後は写真の少ないB5判の
『家の教室。』という小冊子を発行しておられます。
字数の多い、雑誌と言うより書籍ですが、頑張って読み通せば
これほど役に立つ住宅の本は他にありません。
宣伝でなく、本心からそう思います。