古い家をどうするか【家のつくりかたコラム】vol.21

Q.子どもが巣立ち、いまの家は大きすぎる。
築○年経って不便も目立つし、どうすればよいか。

A.あなたに合わせてじっくり考えなければ、
「どうすればよいか」はわからないと思います。

「子どもが巣立った」場合のほか、
同居の親が他界した、などの事情もあって
夫婦二人、あるいは、もう自分ひとりだけで住むことになった
家の広さが60坪、みたいな話をよく聞きます。

現に住んでいる家にせよ、相続などで別途手に入れたにせよ、
古い家をどうするのが最良の方法なのか、一概には言えません。
(このあたりの詳細は第10回でも書きましたので
ぜひ併せてお読みください)

その家が、住む人のこれからの暮らしに合うのか。
現状では合わないならば、改築、減築などの手段で
本当に暮らしに合うように直せるのか。
何度も書いているように、
これらをきちんと検討することが何より重要です。

この手順を飛ばして見た目だけ小綺麗に改修し、
暮らしはじめて早々に不満が出て後悔する、
というケースも本当に多いです。
建築工事は費用も小さな額ではないので、
後悔するのだけは絶対に避けたいですね。
そのためにも、事前の計画をじっくり充実させることが
最重要・最優先なのだと実感します。

いつも同じこと書いてる、と言われたことがありますが、
それだけ重大なポイントであり、それなのに
常に無視されているケースがあまりにも多い、
ということだと理解して頂きたいと思います。

先に書いた通り、建築工事は安いものではありません。
だからこそ可能な限り安くしたい、という気持ちはわかりますが、
工事費だけが人生の出費ではありません。

たとえば家族の誰かに介護の必要ができたとき、
自宅では介護出来ない状況なら施設に入所せざるを得ません。
昔と違って、入所時に何千万円も必要な老人ホームばかりでは
なくなってきましたが、それでも月々の出費は小さくなく、
蓄積すればびっくりするような金額になります。

在宅介護のヘルパーさんを頼り家で介護を、
ということになったとして、
介護するのに困らない広さがあるのか、
介護に必要な機能を満たしているのか。
きちんと検討して作られた家は、ここ最近でようやく
作られるようになってきたところです。
残念ながら、古い家には望むべくもないことです。

「介護するのに困らない広さ」だけはクリアしている
ということも、古い家の場合はとても多いのですが
『襖で区切った6畳の部屋が3つ4つ連なっているから広い』
だけでは「介護に適している」とは言えないこともあります。
大抵そのケースでは無断熱なので、「冬寒く夏暑い」からです。

介護というと「生活の介添えをする」ことに
イメージが限定されがちですが、
日常の起居動作にも手助けが必要な健康状態になると、
病気にかかる可能性も高く、また悪化しやすくなります。
夏の暑さも冬の寒さも、外気と同じぐらいになる部屋では
要介護者の健康維持など、とてもできません。

かといって、冷暖房でカバーするのも
想像以上に高額の光熱費がかかります。
以前お話を聞いたあるお宅では、灯油代“だけ”で月6万円。
さすがに返す言葉を失いました。
要介護の方のいる部屋をずっと適温に保つには
そのぐらいかかってしまうのです。
ちょっと冷えて乾燥するとすぐに風邪引いちゃうから…
とおっしゃっていた表情が忘れられません。
いまよりもずっと灯油の値段が安かった頃のことです。
燃料費の高騰した近年ならいくらになるのか…

要介護までにはならなくても、加齢とともに
“なんの心配もない健康な体”は損なわれていきます。
その変化の具合や程度はひとそれぞれで、
どうすれば快適に暮らせるのか、は、単一の答えで
ひとくくりにできるものではありません。
“こうすれば老後も安心”という売り文句はたいてい、
“あなたに合わせたわけではない”ものになっています。

ですから、一緒にじっくり、きちんと考えましょう、
と口を酸っぱくしてお話ししているところです。