ネコと暮らす難しさ【家のつくりかたコラム】vol.18

Q.猫を何代も飼い続けてきた、これからも新居で
猫と暮らしたい。猫にとって快適な家にしたい。

A.猫もまた他者である、と覚悟できれば
快適な共存が出来ると思います。

前回は二世帯住宅のご相談をきっかけに、
他人と暮らす難しさについて書きました。
他人、ではないですが、他者との暮らしは、
ペットと長く暮らしたいなら意識しなくてはなりません。

私は猫も犬も好きですが、どちらかといえば
猫のほうが家の中にいるケース、機会が多いので
猫と暮らすことについて書いてみます。

猫を飼う人が、キャットタワーとか猫用ベッドを
わざわざ買ってきたのに、一切興味を示さずお蔵入り
みたいな話が、インターネット上にも多くあります。

基本的には笑い話で、猫を飼うときのあるあるだし
そんなに深刻なことではないのですが、
新築住宅でお金をかけてキャットウォークや
キャットステップを豪勢に作ったのに、
全く使ってくれなかったり猫が不快そうだったりしては、
猫にも人にも不幸ではないでしょうか。

前回も書きましたが、自分以外の他者はかならず、
自分とは違う感覚と感性を持っています。
自分と全く同じ他者は存在しないからです。
例外はありません。

人もそうであるように猫も、同じ猫は一匹として
存在しません。
キャットウォークを走り回りたい猫、寝場所にしたい猫。
キャットステップには無関心なのに食器棚には入る猫。
不安定なカーテンの上とかに登りたがる猫もいれば、
その手の冒険はあまりしない猫もいる。

家をつくるときに猫自身の性格などが話題になることは、
実は案外少ないです。
家を作ってから飼い始めるならともかく、
計画時点でもう猫がいるなら、その猫の性格や嗜好を
よく観察するのが何より大事です。

設計の基本姿勢としては、多大な費用をかけて
猫用の設備を造りこみすぎるのは、
一度は再考することをお薦めしています。
作るな、というのではなく、あとで置き替えたり外したり、
使い方をフレキシブルに変えられる家具のように作るのも
ひとつの方法だと思うので、そういう提案もしています。

また例えば、爪研ぎをされては困るので壁の仕上げ材に
爪が滑る素材、爪で削れない硬い素材を選ぶこともあります。
私の経験上、爪研ぎを“させない”方向に環境を作ると
猫自身にはストレスがかかると思います。
以前見たそういう家に住む猫が、ストレスで脱毛していました。

猫の爪研ぎは本能なので、なくすことはできません。
だからといって壁がボロボロになったままなのも
もちろん良いことではないですが、対策を取るなら、
猫にストレスを与えてまで爪研ぎを抑制するのではなく、
研がれても支障の無いつくりを目指してはどうでしょうか。

壁に腰羽目を貼る、出入り口の角や家具の脚などに
爪研ぎしやすいよう麻紐・段ボール・カーペット生地など
貼り付けた部分を作る、など。
建築工事と合わせて考えれば、そういう工夫を仕込むのも
容易になります。

方法はいろいろありますが、とにかく大事なのは
“他者への配慮”。
それは相手がヒトでもネコでも変わりはありません。
誰かにだけ我慢を押しつけるのではなく
お互いに少しずつ我慢し合って、互いが快適なように
工夫していくのがなにより肝心だと思います。
猫は人の言葉を話しませんから、感じ取ってあげる必要性が
家族同士の場合に比べてより重くなるのではないでしょうか。