なにから始めたら【家のつくりかたコラム】vol.9

Q.貯蓄がありません。土地がありません。
ローンもいくら借りられるかわかりません。
なにから始めたらいいでしょう。

A.なにから始めたらいいか、じっくり話しましょう。

ご質問を頂きましたので回答します。
かなり根源的なお悩みです。

どこの土地を買えばいいのか。
家を建てるのにいくらぐらいかかるのか。
貯金はいくらぐらいあればいいのか。

家をつくろうと思ったときに頭に浮かぶ疑問は
数も多いし、方向性も多岐にわたると思います。
それらの疑問の、どこから手をつければいいのか、
どの疑問から順番に解消していけば
家づくりがスムーズに進むのか、
それもわからないことでしょう。

それが当然です。
たいていの人は、生まれて初めて家をつくり、
それが最初で最後の経験になるのですから。

でも、貯蓄がいくらあれば家が建つかなんて、
最初の段階では私にもわかりません。
建てたい家がどういうものになるか、要望次第で
その答えは変わるでしょうから、
銀行でさえ返答できないでしょう。
土地探しも、土地だけ単独で見て探しても
いつまでも決められないのは前回書いたとおりです。

だから、何も決まっていなくていいから、
「家が欲しいけど何から始めたらいい?」と、
まず相談して欲しい、と私は思います。

そうしてくだされば、今度はこちらから質問をします。
一緒に住む家族の人数と構成、それぞれの生活リズム、
それぞれの価値観や体質といった個人的なこと、
建物に関する好みもお聞きしますし、
別の身近なものの好みも伺えれば参考になります。

そうやって会話や雑談を繰り返していくうちに、
大事なことがだんだん、たくさんわかってきます。
そうして初めて、どんな暮らしを望んでいるか、
どういう土地を手に入れたらいいか、
どういう家を建てたら良いのか、
いくらぐらいかかりそうなのかがわかってきます。
それが、家づくりの計画です。

住宅業界は、そういう手順をむしろ嫌ってきました。
効率が悪くなるからです。
自分たちの都合に合わせた商品を用意して、
そこから選んでくれれば仕事が楽で手早く、
工事も毎回同じことの繰り返しだから慣れるのも簡単で、
どんどん大量につくれます。結果、利益も上げやすい。

業界がそれを推奨してきた以上、
ユーザー側もそういうものだと思うのが当然です。
もちろん、ユーザー側にも「いちいち考えるのは面倒くさい」
と思ったり、口に出したりする人がいるのも知っています。
そういう人は、家を手に入れようと思ったときには真っ先に、
ハウスメーカーやビルダーの住宅展示場に行くでしょう。
それはそれで良いと思います。それもまた、ひとつの価値観です。

ですから、私が呼びかけているのは
売っている“モノ”としての家が欲しいのではなくて、
自分たち家族のために居場所がほしい、
作りたいと考えている人たちに向けて、です。

その気持ちだけあれば、あとは何もわからなくていいんです。
まず、どうしたらいいかとメールをください。
話をするなかから、家の形を見出していきましょう。
場所や予算に制約があり、要望が混沌としていても、
ユーザーと一緒に考えながら柔軟に対応していくのが、
設計事務所の仕事です。