Q.暑いのは嫌だが冷房の効き過ぎた部屋も苦手、
涼しく過ごすためにはどうしたらいいか。

A.暑いときも高断熱は有効です。あとは風。
今年(2021年、令和3年)の5月19日から、
気象庁の発表する平年値が更新されました。
天気予報でよく「平年より○○日早く」と言っている、
あの平年値が変わったということ。
過去30年の平均を平年値とするそうですが、
10年ごとにその30年の期間を後ろにずらすと決まっていて、
2011年から先月までは1981年~2010年の30年間、
今年の5月からは1991年~2020年までの30年間の
平均をとって平年値とするそうです。

岩手県では、旧平年値で10.2℃だった平均気温が
新平年値では10.6℃に、0.4℃上がりました。
真夏日の日数は19.1日だったのが22.4日で3日も増え、
年間降雪量は272cmだったのが209cmに減り、
真冬日の日数も14.9日から12.4日と2.5日少なく、
ソメイヨシノの開花日は4月21日から4月18日、3日早まりました。
温暖化の傾向が顕著に出ています。
全国的にも、前回の平年値更新のときより温暖化しているとのこと。
夏が昔より暑くなっているのは間違いないようです。
「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と書いたのは
吉田兼好。「徒然草」第五十五段の冒頭はかなり有名です。
先述の温暖化傾向とあわせて考えると正しいようですが、
有名すぎて誤解され、特に断熱不要論者が好んで用いるので、
間違って広まっていると言っていい状態です。
そもそも、同じ第五十五段後半に「天井の高きは、冬寒く、燈くらし」
つまり天井が高いと(暖気は上昇して天井に逃げるので)冬寒く、
天井までの距離が遠いと光の反射も弱くなって灯りが暗い、
と書いています。良いこととは書いていないわけです。
でも、天井が高いほうが夏は熱気も上に逃げてくれて過ごしやすい。
茅葺きの古民家などに夏訪れると、暗さも相俟って寒いぐらいです。
夏を旨とするのが正しいなら、記述が矛盾しています。
つまるところ徒然草は、600年以上も前の
現代とは比較にならないほど技術と物資が少なかった時代に、
日々の暮らしを愚痴も織り交ぜて書いたすぐれた“随筆”であり、
現代の家づくりに持ち込めるような“技術論”ではない、ということです。
このweb茶話会の第4回でも触れたとおり、
断熱技術と素材で、冬は熱を逃がさず、夏は熱を入れない、
という家を、現代ではごく当たり前につくれます。
そもそも、夏のオフィスなどでエアコンによる冷房が
体に悪影響を及ぼすのは、断熱性能が低いからです。
コンクリートの壁は熱気をため込んでおり、触ると暑い。
サッシはアルミフレームでガラスは一枚、外の熱気を素通し。
こうやって室内はどんどん外気温に近づいていきます。
この状態でエアコンを付けたらどうなるか。
どれだけ冷風を出しても建物自体がいつまでも暑く、
エアコンのインバーターが感知する温度が高いため、
いつまでも冷風を出し続けることになります。
扇風機や送風機の“中“運転程度で一般的には風速3.0m/秒ぐらい、
通常の室温程度の範囲では風速1.0m/秒で体感気温が1℃下がると
言われているので、風だけで30℃の室内が27℃程度に感じられる、
ということです。
そこへさらに、室温より3℃も4℃も低い冷気を投入すれば
体感の温度は7~8℃ぐらい下がります。
人体が自然に体温調整できる温度差は5℃程度だそうですから、
これでは自律神経に悪影響があって当然です。
近年の夏の暑さは確かに酷いですが、それでも機械によって
力ずくで冷やす、ということに慣れすぎると、
短期的には気持ちが良くても人体は必ず変調を来します。
風の涼しさを、意識してでも体で感じるようにしていくのが、
これからの涼の取り方だと思います。

家の通風の話になると今度は、窓を大きく、数も増やして、
ということにこだわりがちになるのですが、
これもまた大きな誤解があります。
建物の空気が動くのは、外で風が吹いているとき、
室内と戸外に温度差があるとき、室内外で気圧差があるとき、
という状況に限られます。
春や秋、室内外に気温差がほとんどない無風の日では、
耐震性が心配なぐらい窓だらけという築50年以上のような家で
すべての窓を全開しても、家に風は通りません。
これは私が実際に古い家に住んでいたとき、
試しにやったことがあるので間違いありません。
通風で重要なのは、窓の数と大きさではなく、位置と形状です。
新築するときは、窓の位置の計画がとても大事です。
日の出から日没(日照時間)のなかで
できる限り長く日影になる位置と、
逆にできるだけ陽が当たり気温が上がりやすい位置に窓を設けます。
比較的日影になりやすいのはトイレなど水回り、
日なたになりやすいのは居間や客間でしょうか。
室温の変化は、日照の影響が一番大きいので、
その2ヵ所は気温差ができやすく、
窓をふたつ開けるだけですぐに風が通ります。
それが平面上、家の対角に位置していると、
空気は流体なので通風にひきずられて家全体の空気が動き、
換気の意味でも役に立ちます。
日照が室温に大きく影響するということは、
窓がむやみに大きく、数が多ければ、
室温への影響はどんどん大きくなるわけです。
いま住んでいる家でも、日照差、室温差を意識して
窓を開けると風が通りやすくなります。
天候にもよりますが、家じゅうの窓を全部開け放つより
2ヵ所だけ開けたほうが風のまわりがよいことも多いです。
そこに扇風機、サーキュレーターを、首振りでも構わないので
おもに通風を加速する方向に向けて稼働させれば、
相当程度に涼しくすることが可能です。
私個人は、東京から岩手に移り住んで以来、
2018年までエアコンのない家に住んでいましたが、
一度も熱中症になったことがありません。
エアコンを取り付けてからも、夏の間つけっぱなし、
という運用はしていません。
電気代の節減の意味でも、健康維持の意味でも、
涼しさをうまくつくりだし、感じ取って暮らすことは
メリットが大きいのではないでしょうか。