断熱の重要性【家のつくりかたコラム】vol.4

Q.断熱性能は上げないといけないものか。
なぜ高断熱にしなくてはならないのか。

A.断熱という言葉は、よく耳にする割には
正確に理解しづらい言葉なのかもしれません

住宅の断熱性を高めると、夏は宅内が暑くなってしまうのでは、
空気がこもるのでは、という心配をなさる方もいました。
「熱」の一字が「あつい」の意味として受け取れてしまうとか、
高断熱は高気密とセットなので空気がこもる気がするとか、
誤解されやすい言葉なのも理由のひとつかと思います。

予算のやりくりの中で、この質問をされることもあります。
特に岩手のような寒冷地に相応のレベルまで断熱性能を
高めようとすると、コストも相応にかかります。
ところが設備機器や内外装の仕上げ材も、良いものはやはり
価格が高いことが多いので、全部盛り込むと予算を超える。
それで、完成後には見えなくなる部分である断熱材に
お金を掛けるのがもったいなく思えるのでしょう。

ですが私は、断熱は優先事項のひとつと考えています。
本来なら寒冷地に限らず、日本中で高レベルの断熱性能を
備えた家を作るべきで、その点も誤解された(させた)まま
日本の住宅業界は何十年も変わらずにいます。

詳細な科学的説明は、専門家の方々がそれぞれ本にしているので、
詳しく知りたい方はそれらをご参照ください。
ここでは概略だけを説明します。

まず「熱」の文字からは夏の風景や炎、炭火など、
なにか温かいもの、熱いものをイメージしがちなのですが、
これは正確ではありませんので、できるだけ忘れてください。

夏、酷い暑さの日には、外の熱気が屋根・壁・窓・床(基礎)
を通り抜けて家の中に入ってきてしまいます。
冬の厳しい寒気の日は、せっかく暖めた室内の温度が
外へ抜けていってしまいます。
この移動するエネルギーのことを「熱」と呼びます。
熱は、高いほうから低いほうへ移動すると決まっています。

冬に家が寒いのは、室内を暖めた熱が外へ逃げているからで、
夏に家が暑いのは、冷やした室内に外から熱が入ってくるからです。
この熱の移動を止めなければ、
エアコンやストーブをどれだけ大きくしても、
フル稼働させても、部屋は暖まりも冷えもしません。

たとえば、風呂の浴槽に湯を溜めるときはまず栓をします。
栓を抜いたままでも、抜けていくお湯の量より蛇口から出す量を
多くすればちゃんとお湯が溜まる、などとは誰も考えません。
水道代も光熱費も垂れ流しで無駄になってしまいます。
断熱性能の低い家で暖房器具を使うのは、
栓をしないで浴槽に湯を溜めるようなものです。

経済面だけでなく、健康面でも断熱性能の低い家には問題が増えます。

断熱性能が低いと、冬は家全体を暖かい状態に維持できません。
トイレや洗面所などの室温は、真冬は5℃ぐらいだったりします。
20℃ぐらいに暖房している居間、台所、食卓の部屋から
玄関や水まわりに移動するということは、
一気に15℃から20℃近くもの温度差に体をさらすことになります。

当然、血管が急激に収縮するので、血圧が急上昇します。
入浴ともなれば、寒い浴室で裸になっているわけですから
血管もより収縮し、血圧もさらに高くなります。
そこから浴槽の熱い湯に入れば、今度は血管が急拡張し
血圧は急激に低下します。
次には寒い洗い場でガマンして体を洗い(血圧は急上昇)、
寒いからもう一度浴槽に入り(急降下)、
寒い脱衣所で急いで着替え(急上昇)、
暖かい部屋に戻る(急降下)。
この血圧の乱高下が、いわゆるヒートショックです。

ヒートショックは脳内出血や心筋梗塞を引き起こす原因にもなります。
これらの疾患が原因で亡くなる事故は、
2018年には約1万9千人と推計される、とのデータもあります。
同年の交通事故による死者数は3,532人(警察庁資料)ですから、
5倍以上の人が自宅で、ヒートショックで亡くなっている、
ということになります。
これはもう、厚着するとか、光熱費がかさんでも暖房するとか、
そういう対処だけでは根本的に解決しない大きな問題です。

断熱性の低さは結露の原因にもなり、カビの発生につながって、
これも健康を害する大きな要因になります。
結露が、湿度や換気の問題だと思っている人は多く、
まったくの間違いではないのですが誤解が含まれています。

湿度というのは空気中の水蒸気量を
ある一定の空気量に対する比率で表していますが、
おなじ湿度40%といっても、空気1立方メートル中の水蒸気量は
・気温20℃→6.92g
・気温5℃→2.72g
と気温によって変動します。これを住宅に当てはめて考えます。

岩手によくある、築50年の住宅で窓は単板ガラスのアルミサッシ、
真冬で外気温が0℃と仮定します。
居間でストーブを焚き、乾燥するのでお湯も沸かしながら、
室温20℃・湿度40%をなんとか保っているとします。
このときの空気中の水蒸気量は、上記の通り1立方メートルあたり
6.92gです。
この家の窓は断熱性が無いも同然なので、外気温の影響を受けて
窓の内側でも表面温度が2℃ぐらいまで下がってしまいます。
すると、室内の窓に接する部分の空気も2℃まで下がります。
2℃の空気は、湿度が100%のときでも1立方メートルあたり
5.57gしか水蒸気を含むことができません。
ところが居間の空気の水蒸気量は先述の通り、
1立方メートルあたり6.92g。
差し引き1.35gの水蒸気が余ってしまいます。
この余ったぶんの水蒸気が、窓に結露して水に戻る、ということです。

たとえば上記と同じ条件下でも、この家のサッシの断熱性が高く、
窓の表面温度を15℃に保てていたらどうなるか。
15℃の空気は、湿度100%のときに1立方メートルあたり12.85gの
水蒸気を含むことが出来ます。
室温20℃湿度40%の空気が触れても、1立方メートルあたり6.92gなので
まだ充分に余裕があります。つまり結露しないで済む、ということです。

これは目に見える窓の部分だけを書き出していますが、
実際の住宅では目に見えない壁の中、床下、天井裏でも
同じことが起こっています。
それらの部分は空気に開放されていないので結露水が乾きづらく、
木材や建材に吸い込まれてしまいます。
それが春もこえて夏まで残り、気温が上がってしまうことで
カビにとって繁殖に絶好の環境が出来上がります。
アレルギー、シックハウス症候群が悪化する原因になるということです。

震災の際には、東日本の広大な範囲で停電が起きました。
岩手では、4月に入ってもまだ80万戸あまりが復旧の目処が立たない、
文字通りの非常事態でした。
その状況で、断熱性能が非常に高い、岩手県沿岸のある街の住宅では、
被災当時に22℃だった居間の室温が、停電し無暖房状態になってから
7日後の時点で、16℃までしか下がっていなかったそうです。
震災当時の岩手では、3月後半の最高気温が10℃に満たない日の方が
圧倒的に多く、まだ春とは呼べない気候でした。
そういう意味では、住宅の断熱性能は家族の生命を守ることに直結すると
言ってもいいぐらいだと思います。

たとえ目に見えない部分でも断熱性能を重視するのは、
前回の記事にも書いたとおり、建築は強・用・美を
バランス良く満たしたものでなくてはならないと考えるからです。

※これまでの茶話会における質問を振り返って
記事を書いていますが、ほかにも疑問がありましたら
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