そもそも設計事務所とは【家のつくりかたコラム】vol.3

Q.そもそも設計事務所、設計士とは何をする人か。

A.いわゆる“設計業務”を行う設計事務所に
限定して説明したいと思います。

前提として、法律(建築基準法)の定義で言えば、
“設計”とは
【その者の責任において、設計図書を作成すること】
とされています。
じゃあ設計図書とはなにか、というと
【建築物の建築工事の実施のために必要な図面
(現寸図その他これに類するものを除く。)】
(建築士法第二条第6項)
法律の条文の中に、明記されているのはこれだけです。
ちょっと素っ気なさ過ぎて想像しづらいと思います。

ついでに言えば、法的にも実務的にも、
工事金額の見積もり、職人さんや材料の手配、
工事の工程と工期の策定は、設計の仕事ではありません。
それは施工管理(工務店や建設会社の監督さん)の仕事。

設計の具体的な実務内容は、
・申請などの法務関係(もちろん、申請前に調査するところから。
家を建てる場所によって適用される法規制が違うので毎回調べる。)
・間取りや構造(つまり建物の形とその強度)の検討、計画
・仕上げや造作や設備の仕様(素材・機能・見た目)の検討、選定
・それらの内容を施主や工務店と打ち合わせて疑義を明確にし、
確定したら図面として完成させること。
といったあたりが挙げられます。

項目だけ見れば少ないように感じるかも知れませんが、
施主自身がそれを出来るかと言ったら、現実にはまず不可能です。
建築関係の法律の知識、構造や材料の知識、間取りや見た目の事例、
メーカー品の選定に必要な判断基準、これらを勉強して習得しながら
法規制をクリアし、間取りを考え、構造を成立させ、
工務店と打ち合わせて工事の段取りや金額と摺り合わせる…

間取りを考えて描くだけが設計の仕事ではないんです。

そして、第1回第2回で書いたように
施主と一緒に施主自身の内面に向き合い、
施主の基準を明らかにして、間取りや仕様、
性能を施主の代わりにゼロから考えるのが設計士であり、
設計事務所のいちばん大きな仕事です。

それは、上述した法律・構造・仕様の検討などと並行して、
どれかの話が進めば別のどれかが矛盾して考え直す、
ということが頻発する、3歩進んで2歩下がるような
煩雑さのなかで行われるものです。

こうやって詳細に定義を考えてみるとわかると思いますが、
“設計”というのは、実に煩雑で、実に手間がかかります。

逆に言えばだからこそ、手軽に住宅が手に入る“商品化住宅”が
ここまで広まってきた、とも言えます。

じっくり「考える」のはお客さんにとっても住宅会社にとっても
“面倒くさい”ことだからぜんぶすっ飛ばして、
事前に準備された数少ない選択肢の中から「選ぶ」だけにする。
本来なら、選ぶためにも自分の判断基準を明確にすることが
とても重要なのですが、“面倒くさい”からそこには触れない、
触れてはならない。
施主の判断基準が曖昧なままなら、完成した家の良し悪しも
わからないから文句を言われることもない。
その代わり家の質を前面には打ち出せないから、
「家を買ってもらうのではなく自分を買ってもらうのだ」
などという、よく考えれば意味不明な“格言”が蔓延する。

住宅業界がこういう考え方で多くの人に家を売りつけ、
施主側もそういう方法ばかりを見聞きしてきた以上、
他の方法を知らないのは仕方がないと思います。
なにしろ日本では、戦後まもなくの1950年代から半世紀以上、
こういう考え方で皆が家を手に入れ“させられ”てきたのですから。

でもここ20年足らずの間に、住宅の供給過剰問題に対する
注目度は上がり続けています。
大量に余っている誰も住まない古い家を直して使えないか、
でも現実には質が低すぎて、改修しても
まともに使える状態ではないケースが非常に多い、
というところまでようやく知られ始めてきています。

せっかくこれから新しく家をつくろうというのなら、
次の世代にも満足して引き継いでもらえるほどの
高品質で長い時間健全に建ち続けるような住宅に、
安心して住めるほうがよいのではないでしょうか。

そういう住宅をつくるのに、手軽で簡単な方法など
絶対にあり得ません。
間取りも構造も材質も見た目も、すべてしっかりよく考えて
選ばなければなりません。

設計者と、設計という仕事は、それを一緒に考えるために
存在していると、私はいつも思っています。