優柔不断だというけれど【家のつくりかたコラム】vol.2

Q.優柔不断で決めるのに時間がかかるので、
家もいくつかの選択肢から選ぶほうが考えやすいと思う。
ゼロからすべて考えるのは大変ではないか。

A.その選択肢は、本当に正しいですか?

前回の回答と共通する点があるので取り上げました。
打合せでこの質問が出てきたら、
「優柔不断とおっしゃいますが、ご自分の好みや望みを
どこまで把握したうえで迷っていますか?」と、
まさに前回同様のことをお尋ねすることになります。

住宅設計を始める際、どこから考えればいいのかわからない、
と似たような悩みを相談されることもまた非常に多いです。

土地が決まっていなければ当然、探すことから考えるわけですが、
すでに土地があれば、いきなり「坪数は40坪ぐらいで」とか、
「最初に坪数を決めたいからあなたの設計する家は坪いくらなのか
まず提示してほしい」とか、そのように話が始まることがあります。

まず、落ち着きましょう。
ご自身とご家族の好みや望みをきちんと整理しなくては、
どこに家を建てても、たとえ100坪の大きさでも、
望み通りの生活はできないですよ。

こうお答えすることになるでしょう。
前回のブログで書いたことそのままです。
基本的に、まず最初にしていただくことは
ご自身の生活を書き出して見つめ直すこと、ですが
家づくりのご相談にいらしたのに、建物の話がいっさいなし、
では寂しいですし先にも進みません。

事務所には、これまでに私が勉強や参考に使ってきた
書籍や雑誌があります。
それらを、適当に手に取って開いたページの建物が
あなたの運命の家、なんてわけはありません。
どういう家が好みですか、といった感じでお尋ねしながら、
こんなのもある、あんなのもある、と例を出していきます。
そして、今販売されている雑誌を書店でめくってみて、
あ、これがいいなと思う写真があったらその雑誌を買ってください、
と言います。逆に、これ嫌だな、と思うのがあったら、
その雑誌も買ってください、と言うとたいてい微妙な顔をされます。

このとき、今日の質問である
「優柔不断なので、いくつかの選択肢から選ぶほうが考えやすい。」
という話が出てくることが間々あります。
「本屋さんにも雑誌がいっぱいありすぎて、どれを見たらいいか
わからなくて…」

無理もないと思います。
私が書店に行って“住宅・インテリア”の棚をざっと見るだけでも、
嘘に近いぐらいでたらめなことが書いてある記事から、
プロにとっても充分に勉強になるものまで。
写真もあきらかに合成・加工したり極端な広角レンズを使って
誇張したものから、印象よく世界観をきちんと伝えているものまで、
玉石混交を絵に描いたようなラインナップで疲れてしまいます。

ですが、その中から自分の理想をひとつ、
絶対に間違わずに選び取って来てください、
という意味ではないのです。
もっと言えば、1冊だけ買えばよいわけではありません。
家を考えるあいだずっと、雑誌は都度チェックして、
良いと思うのも悪いと思うのも買って欲しいのです。
(できれば雑誌のバックナンバーを見て欲しいのですが、
岩手ではかなり難しいのが悩みどころです。)

数を重ねることがなぜ重要かというと、“傾向が見える”からです。
1軒の家を見て「これが良い!」と真似をしても、
それは単なるパクリであって、理想の家にはなりません。
いくつかの(できればいくつもの)自分の好きな家の写真を
並べて何度も見返していくと、必ず共通点があります。

家に限らず、洋服でも車でもなんでも、好きなモノには
共通点があるはずです。
それが自分の心のツボだったりします。
ツボは案外、自分ではわからないものです。
付き合いの長い人から「あなたはよくそういう服を着る」
と言われて初めて自覚する経験、多いのではないでしょうか。

ツボは、自分の美の基準、ものさしとも言えるかもしれません。
なぜそれが好きなのか、逆に嫌いなのかの理由です。
自分のものさしを自分で把握できれば、つまり理由がわかっていれば、
次から次に選択肢が現れても迷うことがずいぶん減ります。

逆に言うなら、自分の基準、ものさしを知らなければ
いくら選択肢を絞っても、たとえ二者択一まで絞っても、
満足いく決断はできないのではないかと思います。
選択肢がすべて的外れだったら、
どれを選んでも納得するはずがありません。
優柔不断というよりも、根拠がないから決められない。

ほんとうは、あなたの性格が優柔不断なのではなく、
ものさしをまだ見つけていないだけかもしれません。

もちろん、いくら並べて見てもよくわからない
ということにもなり得ます。
自分のツボが自分でもよく見えない、ということ、
よくあります。

そういうとき、さっきの洋服の話のように、
こういうのがお好きですか?とツボを見抜くのも、
設計事務所の仕事のひとつです。
住宅に限って言えば、です。
洋服のことはわからないですけれども。