稲刈りも終わって田んぼがすっきりした、
と思っていたが、遠目にはまだ黄金色の所も多い。
たまに山道を走ると目線が変わっておもしろい。
脱穀され、刻んで田んぼに撒かれた稲の匂いがする。
そのせいで秋らしく感じるのかもしれない。
山でも町でも、木々が色づいて、
朝晩も肌寒いが、ひさしぶりに出かけた日は
予報よりよく晴れていた。
前からお邪魔したいと思っていた工房に伺った。
彼は、弓師さんである。
弓師という苗字ではなく、ほんとうに
「矢を射る弓」をつくっている。
競技などで矢を射る姿は見たことがあっても、
弓をつくるところは見たことがない。
日本刀のほうがまだしも、製造過程に見覚えがある。
弓師・杣友重(そま・ともしげ)さんの工房で、
挨拶と同行者の紹介もそこそこに、説明に聞き入った。
話を伺うのに夢中で、ろくに写真も撮らなかった。
弓づくりの工程、弓の歴史、杣さんの弓師としての修行のこと、
材料の竹のこと、木のこと…
木のことなどは仕事柄、多少わきまえているつもりだったが
それでも初めて聞く話も多く、そのほかのことなど
衝撃的なぐらい知らないことばかりで、本当におもしろかった。
2時間半が一瞬だった。
ここまでのめり込んだのもひさしぶりである。
弓師さんは九州に多く、東京以北では杣さんお一人だそうだ。
そもそも全国でも20人ぐらいしかいらっしゃらないそうで、
となれば、簡単にお話を聞いたり、
作業の姿を拝見できるものではない。
おそろしく貴重な機会を頂いた。
大人になってから学ぶのは本当に面白い。
今になって、勉強したいことがどんどん増えるし、
知らないことに出くわすのが本当に楽しい。
唐突なようだが、準という字には
“弓の的”としての意味もあるらしい。
「標準」「基準」「準拠」などの漢字もあるように、
“目当て”や“目安”、“手本”というような意味を持つところから
目標・標的のような使われ方をする。
さらに語源で言うと、“さんずい”からわかるように
水平、平らかにする、ということから成り立っていて、
“みずもり”の意味を持つということを、
杣さんのところから帰ってから知って驚いた。
書肆みず盛りを始めるときには、“準”の字と
“弓の的”のことまで知っていたわけではなかったし、
杣さんとご縁が出来るとは想像もしていなかったので、
こうも繋がってくると嬉しくなる。
もっと言えば、弓工房杣の看板文字と書肆みず盛りのロゴは、
同じ書家さんに書いて頂いたものである。
盛岡の書家、伊藤康子さん。
これはいろいろと、ご縁を信じても良いのではないか。
よい思い出の秋の一日であった。