夏になる

早春から時間が飛ぶように過ぎ去った。
思い出して時間の早さに愕然とする。
光陰矢のごとし、を実感するときがきたのだ。


5月
初旬。10連休の騒ぎは、個人事業主には影響が小さい。
平常運転のなかで、一度うっかり買い物に出て
車の混雑に巻き込まれたぐらいであった。
根を詰める図面仕事が捗ったのはよかった。

中旬。これまでにあまりなかったケースの相談を受けて
調べごと続出。
そもそも調べごとや勉強の必要がなくなることは
絶対にあり得ない仕事に違いないのだが、
ここまであちこち聞き回らなくてはならない状況は
新人の頃以来だ、と思った。
駆け出しの気持ちで仕事に挑むのも、たまにはいい。

某日。仲間内の飲み会。
さんさ踊りにみんなで出たいな、と言い出した人がいて、
じゃあ出てみよっか、などと軽く言ってしまった。
説明会に出なくてはならなかったり、急に忙しくなる。

下旬。5月とは思えない気温、急に29℃の日が現れ、
盛岡も2、3日は30℃超えの日があった。夏が不安である。
そんななかちょっと遠方の打合せが重なる。
道路端にいた山羊も暑さでバテ気味、日陰から出てこなかった。

6月
5月から続いた暑さは初旬で落ち着き、
時期相応の気温で過ごしやすい。

さんさ踊りの出場登録が無事終わり、練習を始める。
太鼓を叩くだけは叩いたことがある、程度からの挑戦で、
体も頭も思うに任せない。部活のようである。
これもまた、たまにはいい。

某日。映画「ゴッドファーザー」を映画館で観た。
ビデオで最後に観たのはいつだったか、もう覚えていない。
若きロバート・デュヴァルの怜悧さにいつも痺れる。
「地獄の黙示録」より断然こっちが好き。

7月
完了検査を受けたり、建て替えに向けて
解体前の工事があったり、いくつか慌ただしい現場が
重なって、気持ちが落ち着かない。
こういう時は本を読むことが増えてしまって、
余計に時間がなくなる。

某日。遠野で新築された神社の神楽殿。
日射しは酷かったが空気が清浄な気がする。

さんさ踊りの練習も佳境に入る。
最終的には笛パートに入ってくれる人もいて、
初出場団体の割に陣容はいっちょまえ。
みな楽しんでくれていることが何よりほっとした。
お祭りに自発的に加わって、渋々の気持ちの人も
ふつうは少ないだろうけど。

8月
某日。さんさ踊り本番。
2か月足らずの練習期間で、予想したよりずっと
きちんと息の合った演奏演舞ができた。
みんなすごかった。

あまりの暑さに、ゴール後すこし具合悪い、
という方がいらした。
事務方として参加企画を手伝った身としては、心残り。
でもその方を含めて、みんな笑って楽しかったと
言ってくださったのが慰め。

イベントごとに参加すると、いつもなにがしかの
発見、反省、喜びがある。
幼い頃と違い、毎日が新しい体験ということもない年齢になって、
毎日仕事をしているといつも同じ道を選びがちだが、
その硬直、盲目を啓いてくれる。

お祭り男だったことは40年の人生で一度たりともないが、
中央通のスタート地点を出発した瞬間は、
たしかに快感だった。これも発見。
一緒に出てくれた皆に感謝している。

お祭りの後は気持ちが日常に戻りづらい。
筋肉痛がなかなか来ず、得体の知れない不安がある。
それでも少しずつ、仕事に引きずられて戻っていく。

雲がときどき、秋のようにちぎれる。
流れていく時間を前に、為す術なく立ち尽くすのは
もったいない、と思った。