Q.「耐震基準」「旧耐震・新耐震」とかよく聞くけど
どういうことか、旧耐震の家に住んではいけないのか。
A.いけないかどうか以前に、命を守るために必須のことです。
2024年1月1日、能登半島で地震が発生。
マグニチュード7.6、震度は7に達して被害が甚大でした。
元旦という特別な日にちだったこともあって
大変な衝撃を感じた方も多いと思います。
1階が完全につぶれた一軒家、真横に倒壊してしまったビル、
建築物の被害映像を見て愕然としました。
現地で詳細に調べなければ断言はできませんが
倒壊・圧潰してしまった家の多くはとても古く見えました。
おそらくは昭和56年(1981年)に建築基準法で定める耐震基準が
強化される前の、いわゆる「旧耐震基準」に基づいて建築された
古い家だと思います。
2024年から見れば新築から43年以上経った家です。
1981年の基準強化のあと、1995年には阪神淡路大震災が起こり、
耐震基準の強化はまだ不十分だったとして、
2000年にも建築基準法の大きな改正がありました。
それ以降も東日本大震災をはじめ多くの災害があり、
法令はその都度、大小さまざまな基準と規制の強化を繰り返し、
その基準強化の流れは今後も続くでしょう。
建設業の現場での慣例で言えば、
1981年の法改正前の基準に従っている建物を「旧耐震」
1981年から2000年の法改正までの間の基準に従う建物を「新耐震」
2000年以降の基準に合わせているものを「現行基準」
などと呼んでいます。
新耐震基準の内容をざっくりと簡単に言えば
「震度5強程度の地震でほとんど損傷しないこと」
「阪神淡路大震災クラスの震度6強~7程度の地震で倒壊・崩壊しないこと」
とされています。
「倒壊・崩壊」とは、家が壊れ倒れて、崩れ落ちてしまうこと。
阪神大震災のとき、被害者の死因の8割弱が家屋の倒壊、
家具の転倒によって家屋内で圧死したものだったことが、
教訓として活かされて、策定された基準です。
震度6強~7という巨大地震の揺れ方でも、
傾くことはあっても崩れ落ちはしない、ということは、
建物の内部に空間が残って押しつぶされずに済み、
ひいては命を守ることに直結します。
現行基準に準じていれば絶対に安全、ということでは
ないのですが、柱も壁も少ない(窓や襖だらけの)
築年数が半世紀以上、というような家に住んでいると、
ひとたび大きな地震が起きれば著しく危険であることは
想像も容易なのではないでしょうか。
もちろん、耐震改修や耐震性の高い住宅の新築は、
多額の費用がかかるので簡単にできることではありません。
だからといって何もしなくていいとは思えません。
きちんと耐震診断して無駄なく計画するのは大前提ですが、
長く過ごす場所(寝室や居間など)中心に補強する、
などの方法を検討して、費用を抑えられる可能性もあります。
検討もしないうちに諦めるのではなく、きちんと考えられる
専門家を頼って、しっかり考えてみませんか。
【以下、怒りのあまり長文になっています】
ところで先日、あるネット記事でこんな概要の話を読みました。
中古マンションを探しているが、旧耐震のマンションを
不動産屋に勧められ詳細な説明もなかった、
信用して話を進めてもいいものだろうか、という質問。
それに答えるのがマンション管理士・宅地建物取引士という
国家資格を持つ人物だそうですが、その回答が
1.不動産の営業マンの一番の願いは客の希望どおりの立地に
住んでもらいたい、ということなので、耐震性に拘らずに勧めた
2.営業担当者が深く考えていない
3.耐震性で縛ると提案できる物件数が減るので勧めた
結論としては、カモにしようと悪意を持って勧めたのではなく、
“立地条件というお客様の願いを叶えるための提案だから心配ない”
というものでした。
「耐震性がそんなに不安なら、心配だと伝えてみるとよい」
「さまざまな条件がある中で、耐震性を妥協して他の条件を
優先する、という選択は間違ったものではない」
とも書いていて、開いた口が塞がりません。
「心配だと伝えてみるとよい」
伝えたらなにかしてくれるのでしょうか?
「さまざまな条件がある中で、耐震性を妥協して他の条件を
優先する、という選択は間違ったものではない」
他の条件を優先して圧死、あるいは水害で溺死、
という可能性までありうることを
きちんとデータや実例まで示して説明し、
それでも命より立地条件などのほうが重要だ、
とお客様自身が強く希望するところまで話したのか?
そこまでしているわけない、と私は断言しますけれども。
“客の希望の立地にすんでもらいたいという願いが一番”
などちゃんちゃらおかしい。
そのすぐ後に自分で言及したとおり、紹介する物件数が減る
イコール成約しない、つまり自分の食い扶持が減る、から
紹介しているに過ぎないのは明白です。
こういう人間が、
「ご希望の条件だとこれしかないですぅ~」とか言いながら
劣悪な建物を売りつけたり貸しつけたりすることを続けるから、
いつまで経っても耐震性の低い物件が補強されないし、
ハザードマップの警戒区域ど真ん中に高層マンションを建てたりする
愚行がなくならないのです。
今すぐに、こんな人間は建物に関わる世界から離れてもらいたい。
もちろん耐震改修の費用は小さなものではありません。
全員が全員、十全な改修ができるとは限らない。
だからといって不要ということではまったくない。
行政の補助金は雀の涙だし、いろいろな考え方を
組み合わせて工夫してなんとかすることも必要です。
でも「他の条件を優先」するような事柄ではありません。
人命がかかっていることを何だと思っているのか。
「安全性が担保されなければ商品価値はないのだ」
ということを、流通の現場側から供給側に向けて
強く伝えることも、世の中の仕組みを変えるときには
絶対に必要なことです。
住む人に費用負担させるだけが唯一の方法ではない。
つくる時点でもっとモラルの高い方向性を持つことも
できるはずです。
そもそも大規模な高層・超高層マンションは、
耐震改修どころか外壁補修だけでも莫大な金額がかかります。
修繕積立金では全く賄いきれず何も出来ない、という事実は
もうずっと前から問題化しています。
自費で、自分の住む一室だけ潰れない補強をしても、
下の階から崩れていけば命は守れません。
必要な安全性を担保できない建物を、
つくったり売ったりした後のことは知らない、
などという考え方には怒りを感じます。
私個人のことをいえば幸い会社勤めの頃も、
コストとの兼ね合いで過剰じゃないか?と
上長から言われるような仕事に関わってきたので
そこの良心の呵責には無縁のまま働いてきました。
だからこそ、自分で責任を持って考え
形に出来る住宅の仕事を続けています。