デザインとは【家のつくりかたコラム】vol.14

Q.やっぱりデザインが売り(重視)なのか。
ウェブ茶話会第3回の記事を加筆修正し、
後半をこちらに独立させました。

A.その「デザイン」とは何を指していますか?

設計事務所はやっぱりデザインが売りなんですか、
などという話になることも多いですが、
この“デザイン”という言葉にも触れておきます。

“デザイン”という言葉は日本において、
“見た目”という意味で使われています。
体感で言うともう100%そうですが、
これは意味の捉え方を間違っています。

英語の design は和訳すると、“意匠”の他に
“立案、企画、企て、予定、意図、目的”
などの意味があります。かなり幅が広い。

企画、意図、目的を考えることを
「デザインする」と呼びます。

設計者が間取りを描いているとき、
考えているのは見た目ではなく使い勝手です。
窓の位置や大きさ、戸や家具の位置、形状、つくり、
棚があればその位置、奥行き、幅、取り付け方法。
それぞれの素材や仕上げ方も、使いやすさと同時に
手に触れて不愉快でないか、すぐ壊れず長持ちするか、
そういうことも考えます。

そもそも床、壁、天井の仕上げも、見た目だけでなく
施主の好み(ときには体質など)も考慮して、
破綻のないように組合せを考えて提案をします。
外観の形も色も、見た目だけが問題なのではありません。

間取りは家を上から見て考えますが、横から見て
高さ関係を検討する際には窓の大きさや数や位置を、
断熱性能、明るさ、視界、プライバシーなどと見た目が
バランス良く満たされるように考えるし、
柱と梁の関係が力学的に強固に成立させることと
見た目がおかしくならないことを両立するよう考えます。

どの計画ひとつとっても、見た目のことだけ考えればすむほど
単純なものではありません。
同時にいろいろな要素を検討して、矛盾が生じれば書き直して、
行きつ戻りつ産みの苦しみを味わうのがデザインです。

建築に関わる人間ならば必ず知っている、
“強・用・美”という言葉があります。
2000年以上前の建築家が言った、建築デザインの基本です。

“強”は強度、耐久性。
“用”は用いること、使い勝手。
“美”は見た目が美しいこと。

耐久性だけを追求すると必要以上にゴツいものになりがちで、
使い勝手だけに走るとごちゃごちゃと機能が増えがちなので、
見た目の美しさにも注意しなくてはなりません。
ゴツいのもゴチャゴチャも、耐久性・使い勝手を重視したつもりが
最終的には機能を損なう、ということも実はよくある話なので、
見た目を美しくすることは単に見た目だけでなく、
機能性のバランスを取ることにも役立ちます。
だから全てを兼ね備えているのが結局はもっとも得なのです。

本来「デザインが良い」という言い方ではなく、
デザインされているか、されていないか、と言うべきです。
強・用・美のどれかが欠けていれば、それは
『デザインされていない』のです。

初見では使い方がまったくわからないので
手順のテプラがたくさん貼られている、
コンビニのコーヒーの機械。
火災時に絶対必要な消火栓がまわりの壁と完全に同じ色に
塗られていて何処にあるかわからなくなっているビル。
そういった、機能を全く満たさない案件を
「デザインの敗北」と呼ぶ例をネットで見ました。
ニュアンスは合ってますが、デザインに勝利も敗北もない。
そもそもあれは単に「デザインされていない」だけです。

「デザインと機能は両立しない」のではなくて
機能はデザインの中に含まれていなくてはならないのです。
デザインがアートとはまったく違う理由もこれです。

設計者の役割は建築をデザインすることです。

そして、建築デザインの基本である“強・用・美“は、
設計者が一人で決めるのではありません。
“強”については客観的な基準もありますが、
“用・美”はひとそれぞれに基準があります。

ウェブ茶話会の第2回でも本稿の中程でも書いたように、
施主とともに基準をあきらかにして、
施主とともにデザインをするということです。

私は20年前からそう教わり、教えの正しさを
経験の中でずっと学んできました。